大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 昭和55年(家イ)2170号 審判 1980年12月25日

参考 アメリカ牴触法第二リステイトメント(仮訳)

七一条夫婦の一方の住所地の州

夫婦の一方が住所を有する州は、婚姻を解消する裁判管轄権を行使することができる。

二八五条離婚の権利を規定する法

訴えの提起される住所地の州の法が、離婚の権利を判断するために適用される。

国籍 アメリカ合衆国 住所 アメリカ合衆国ニューヨーク州 居所 名古屋市

申立人 トーマス・アイ・ジョーン

本籍 豊橋市 住所 名古屋市

相手方 山本美智子

主文

申立人と相手方は離婚する。

理由

第一当事者の求めた裁判

申立人は主文同旨の調停を求め、申立の実情として次のとおり述べた。

申立人と相手方は、昭和五一年四月三日婚姻したが、言語上の障害や互に母国に対する感情を捨てきれないこと等から次第に性格の不一致を感じる様になり、昭和五三年夏ころからは性関係も全くなくなつた。申立人は昭和五五年三月に一時帰国したが、今般相手方と離婚の合意が出来たので本申立のため来日したものである。

第二当裁判所の判断

一  本件は日本に居所を有する米国籍の申立人からの離婚申立であるが、相手方は肩書地に住所を有するので我国に国際裁判管轄権があるものと解され、従つて又当裁判所に対する本申立も相当である。

二  次に離婚の準拠法について考えると、法例一六条によれば、離婚はその原因たる事実の発生したる時における夫の本国法即ち本件では申立人の属する州であるオハイオ州法によることになる。アメリカ合衆国の国際私法によれば、離婚については、夫婦のいずれか一方の住所のある州(国)が管轄権を有するものとされ(リステートメントセカンド七一条)、又訴の提起される住所のある州(国)の法が離婚の権利を判断するために適用される(リステートメントセカンド二八五条)。以上のことはオハイオ州でも同様と解されるところ、そうすれば当事者の一方である相手方が日本に住所を有することの明らかな本件については結局法例二九条によつて日本法によるべきこととなる。

三  記録中の戸籍謄本、結婚証明書、家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書、当裁判所昭和五五年(家イ)第二一七一号認知申立事件の記録中の同調査官作成の調査報告書および申立人、相手方双方の各審問の結果によれば、申立の実情記載の事実および申立人と相手方は全く性関係がなくなつて後も互に生活費を折半しあう形で共同生活を継続していたが、昭和五三年暮ころ、相手方は、申立人を通じて三田正夫を知り、爾来同人と情交を深め、同五五年一月には同人との間の子を懐胎するに至り、同年三月申立人が帰国するや翌四月ころより三田と同棲を開始し、現在親子三人で暮している事実が認められる。

以上の事実によれば、申立人と相手方の婚姻は既に破綻しているものといわざるをえず、婚姻を継続し難い重大な事由が存するものとして申立人は相手方に対し民法七七〇条一項五号により離婚請求出来るものと解されるので本件申立は相当である。

よつて家庭裁判所調停委員山田鐐一、同稲子宣子の各意見を聴いたうえ、主文のとおり審判する。

(尚申立人と相手方間の子として外国人登録されているミチオ・ジョーンについては、当裁判所昭和五五年(家イ)第二一七一号認知申立事件によつて昭和五五年一二月二五日認知の審判がなされたので、その親権者の指定等の判断は行わない。)

(家事審判官 笹本淳子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例